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2009.12.23

富有子身支度

 吹きすさぶ北風の下、じっと身を寄せ合ってただひたすらに耐える小動物の群れを思わせる集合住宅の一室から。今にもかき消されそうな弱々しい明かりが溢れていた。
 乱雑に散らかった部屋の主の手にあった四角い紙片が、真新しい封筒にそっと戻されるのと同時に。幾度目かのため息が、室内の冷えた空気に溶けていった。
「来週の今頃は、東京かあ」
 ぼんやりとした表情にそぐわぬ手際の良さで、衣類や雑貨が旅行用と思しき大きめの鞄に次々と詰められてゆく。
「……っと、これは、要らないんだった」
 敷物か何かのように見える折りたたまれた布地が、鞄から取り出されると。そこにぽっかりと出来た空間が、やたらと強い自己主張をしている。
「選考会、落ちちゃったもんな。ちゃんと自己アピールもしたのに、どうしてアタイだけ……」
「アタイ、このまま東京に行っていいのかな。他の子たちの舞台を見たって、みじめな気持ちになるだけなんじゃないかな。それならいっそ、この切符を払い戻して朝一番の電車で」
 かさかさと音を立てて、逆さまにされた封筒の中から紙片が床に落ちる。
「バッカだな、今更帰ったって、あの家にアタイの居場所なんかありはしないじゃないか」
 周囲に響く乾いた笑いとともに。生ぬるい液体がほほを伝い、紙片に印字された「東京」の文字の上に染みを作り始める。
「才能、無いのかな。諦めろってことなのかなあ。でも、でもさぁ!」
「アタイだって、アタイだって!」
「冬コミにサークル参加したかったんだぁぁぁぁっ!」
 その叫び声を、無情にもかき消した夜風の行く先に向かって。今はただ願いたい。せめて冬コミ当日は、穏やかな晴天に恵まれんことを。<第一部完>
……っとまあ、あれですよそんな感じで?悲劇のヒロインごっこをやりながら冬コミ準備をしているからちっとも進まねえのです。
ちなみに上記の話は基本的にフィクションではあるものの、実家うんぬんの部分に関してはかなーりノン・フィクションでありますが故に、アタイはリアルに今年も実家へは帰らないのであった。まる。めでたしめでたし。アタイの脳が。